リーダーに着任したころ。
部下に話しかけても、どこかよそよそしい。 会議で意見を求めても、誰も発言しない。 廊下ですれ違うと、明らかに目を逸らされる。
「もしかして…嫌われてる?」
夜、ベッドに入っても、その不安が頭から離れません。
前任者はあんなに慕われていたのに、自分は何がダメなんだろう。
明日出社するのが、正直怖い。
その気持ち、痛いほどわかります。
実は私も以前、全く同じ状況でした。
新任リーダーとして着任した初日、部下たちの冷たい視線に凍りつきました。
でも、あることに気づいてから、状況が一変しました。
「信頼は、特別なカリスマ性がなくても築ける」
その気づきをもとに、小さな行動を積み重ねた結果
- 着任3ヶ月後:部下から自発的に相談が来るようになった
- 半年後:チームの生産性が20%向上
- 1年後:「あなたのチームに異動したい」と他部署から問い合わせが来た
今では部下たちと笑いながら仕事ができています。
特別なカリスマ性も、話術も必要ありませんでした。
必要だったのは、「最初の1ヶ月で何をするか」を知っていたかどうか、それだけです。
この記事では、新任リーダーのあなたが最初の1ヶ月で絶対にやるべき7つの具体的行動を、実際の会話例やNG例とともにお伝えします。
読み終わる頃には、明日から何をすればいいか明確になっているはずです。
なぜ「最初の1ヶ月」が決定的に重要なのか
心理学に「初頭効果」という概念があります。 最初に形成された印象は、その後も長く影響し続けるという法則です。
つまり、着任後の最初の1ヶ月で築いた印象が、その後のリーダーシップの土台になるのです。
逆に言えば、最初の1ヶ月で信頼を失うと、その後の挽回には3倍の時間がかかります。
ある調査によれば、新任リーダーが着任後3ヶ月以内にチームの信頼を得られなかった場合、1年以内にそのチームから離職者が出る確率は通常の2.5倍に跳ね上がります。
だからこそ、今この瞬間が最も重要なのです。
新任リーダーが陥る3つの致命的な勘違い
まず、多くの新任リーダーが無意識にやってしまう「信頼を失う行動」を確認しましょう。
勘違い1:「まずは成果を出して認めさせよう」
これは逆効果です。
着任早々に大きな改革や目標を打ち出すと、部下は「現状を否定された」と感じます。 前任者のやり方を全否定することは、それを支えてきた部下たちの努力も否定することになるのです。
私も最初の1週間で「このプロセス、非効率ですね。変えましょう」と言ってしまい、ベテラン社員の顔が一気に曇ったことを今でも覚えています。
勘違い2:「厳しく接して舐められないようにしよう」
恐怖は信頼を生みません。
「最初が肝心」と厳しく接すると、部下は萎縮して本音を言わなくなります。 表面上は従っても、心は離れていきます。
勘違い3:「早く仲良くなろうと距離を詰めすぎる」
馴れ馴れしさと親しみは別物です。
いきなりプライベートな話に踏み込んだり、飲み会を強要したりすると、部下は警戒します。 信頼関係には「適切な距離感」が必要なのです。
では、具体的に何をすればいいのか? 次から、時系列で解説していきます。
【着任1週目】土台を作る3つの行動
1. 個別面談で「聞くこと」に徹する
着任1週目の最優先事項は、全員と1対1で話すことです。 ただし、ここでの目的は「教える」ことではありません。 徹底的に「聞く」ことです。
面談で聞くべき3つの質問
- 「今の業務で、やりがいを感じる部分はどこですか?」
- 「逆に、困っていることや改善したいことはありますか?」
- 「私に期待することがあれば、率直に教えてください」
実際の会話例
NG例:
あなた:「今の業務、問題ないですか?」
部下:「特にないです」
あなた:「そうですか。何かあれば言ってください」
(形式的で何も得られない)
OK例:
あなた:「田中さんは、今の業務の中でどんな時にやりがいを感じますか?」
部下:「お客様から『ありがとう』と言われた時ですかね...」
あなた:「そうなんですね。具体的にどんなシーンでしたか?」
(相手の価値観を深く知ることができる)
面談で絶対にやってはいけないこと
- 自分の考えを先に話す
- 相手の発言を「でも」「しかし」で否定する
- メモを取らない(話を聞いていないと思われる)
ポイント: この1週間は、とにかく「聞く人」として認識されることが重要です。
2. 前任者のやり方を否定しない
これは新任リーダーが最も陥りやすい罠です。
前任者のやり方に非効率な部分があっても、着任1週目では絶対に否定してはいけません。
なぜなら、部下たちはそのやり方で頑張ってきた当事者だからです。 それを否定することは、彼らの過去の努力を否定することになります。
正しいアプローチ
NG: 「このやり方、明らかに非効率ですね。すぐ変えましょう」
OK: 「これまでこの方法で成果を上げてこられたんですね。どんな工夫をされていたんですか?」 (まず認めてから、後日改善を提案する)
変更が必要な場合でも、最低2週間は現状を観察してから提案しましょう。
3. 小さな感謝を毎日5回伝える
着任1週目から習慣にすべきなのが、具体的な感謝です。
「お疲れさま」ではなく、「何に対して感謝しているか」を明確に伝えます。
感謝の伝え方:NG/OK比較
NG: 「お疲れさまです」(挨拶になっている)
OK: 「山田さん、さっきの資料、グラフが見やすくて助かりました。ありがとう」
さらに良い例: 「山田さん、さっきの資料のグラフ、色分けが絶妙で一目で傾向が分かりました。こういう配慮、本当にありがたいです」
実践のコツ
- 朝出社したら、その日感謝を伝える5人をメモする
- 業務終了前に必ず5人に伝える
- 具体的な行動を挙げる(「グラフの色分け」など)
最初は照れますが、1週間続けると部下の表情が明らかに変わります。
【着任2週目】信頼の種を蒔く2つの行動
4. 雑談で「人間性」を見せる
2週目に入ったら、少しずつ距離を縮めていきます。 ただし、無理にプライベートに踏み込むのではなく、自分から開示するのがポイントです。
効果的な雑談のテーマ
- 週末の過ごし方(「久しぶりに映画見たんですけど…」)
- 最近のニュース(「○○のニュース見ました?どう思います?」)
- 失敗談(「私も新人の頃、こんな失敗して…」)
実際の会話例
あなた:「佐藤さん、週末は何かされました?」
部下:「特に...家でゆっくりしてました」
あなた:「いいですね。私は久々に料理したんですけど、見事に失敗して(笑)。佐藤さんは料理とかします?」
部下:「あ、実は結構好きで...」
(自己開示から会話が広がる)
重要: 自分から失敗談や弱みを見せることで、部下は「完璧でなくてもいいんだ」と安心します。
5. 小さな約束を100%守る
信頼の本質は「言ったことをやる」ことです。
新任リーダーが最も注目されているのが、約束を守るかどうかです。
約束の例
- 「明日までに確認します」→必ず明日中に報告
- 「来週の会議で検討しましょう」→必ず議題に入れる
- 「調べておきます」→期限を決めて必ず調べる
私の失敗談
着任2週目、部下に「来週までに環境改善の件、検討しますね」と言いながら、忙しくて忘れてしまいました。
翌週、その部下は二度と相談してきませんでした。
たった一度の約束破りが、芽生え始めた信頼を完全に壊したのです。
約束を守るコツ
- 約束した瞬間にスケジュールに入れる
- できない約束は最初からしない
- 遅れそうなら事前に連絡する
「この人は約束を守る人だ」と認識されれば、信頼は加速度的に積み上がります。
【着任3〜4週目】信頼を固める2つの仕上げ
6. 的確なフィードバックで成長を支援する
3週目に入ると、部下の仕事ぶりが見えてきます。 ここで重要なのが、具体的なフィードバックです。
フィードバックの黄金ルール
SBI法を使います。
- S (Situation): 状況
- B (Behavior): 行動
- I (Impact): 影響
実践例
NG: 「プレゼン、良かったよ」(抽象的)
OK(SBI法): 「昨日のプレゼン(S:状況)、冒頭で結論を先に示してくれた(B:行動)おかげで、参加者全員がすぐに理解できていましたね(I:影響)。あの構成、完璧でした」
改善点を伝える時も同様
NG: 「報告が遅い」(人格否定に聞こえる)
OK: 「今朝の件(S)、私に報告が来たのが午後3時でした(B)。もし午前中に分かっていれば、対応策を一緒に考える時間が取れたと思います(I)。次回から、気づいた時点で一報もらえると助かります」
7. 公平性を「行動」で証明する
1ヶ月目の最後の仕上げが、公平な対応の証明です。
部下は、あなたが誰をどう扱うかを常に観察しています。
公平性が問われる場面
- 評価場面
- 成果を上げた人は必ず認める
- 個人的な好き嫌いで評価を変えない
- 意見の採用
- ベテランの意見だから採用、新人の意見だから却下…はNG
- 意見の質で判断する
- 仕事の配分
- 特定の人に負担が偏らないようにする
- 「なぜこの人にこの仕事を任せたか」を説明できるようにする
私がやってしまった失敗
着任1ヶ月目、話しやすいAさんにばかり相談していました。 すると、他のメンバーから「課長はAさんばかり贔屓している」と陰で言われていることを知りました。
それ以降、意識的に全員に均等に声をかけるようにしたところ、雰囲気が改善されました。
絶対にやってはいけないNG行動5選
新任リーダーが信頼を一瞬で失う行動を、実例付きで解説します。
NG1:他の部下がいる前で叱責する
最悪の例: 会議中、「田中さん、この資料、何度言えば分かるの?」と他のメンバーの前で叱る。
なぜダメか: 叱られた本人だけでなく、その場にいた全員が「次は自分かも」と恐怖を感じます。
正しい対応: 会議後、個別に呼んで「さっきの件、一緒に改善策を考えよう」と伝える。
NG2:感情をぶつける
最悪の例: イライラした状態で「なんでこんなこともできないの!」と声を荒げる。
なぜダメか: 部下は「この人は感情的で怖い」と学習し、報告・相談をしなくなります。
正しい対応: イライラしている時は、一度その場を離れて深呼吸。落ち着いてから話す。
NG3:部下の意見を頭ごなしに否定
最悪の例: 部下:「こういうやり方はどうでしょうか?」 あなた:「それは無理だね。理由は分かるよね?」
なぜダメか: 「意見を言っても無駄」と学習し、誰も提案しなくなります。
正しい対応: 「面白い視点ですね。ただ○○という制約があって難しいかも。△△の方向で考えてみるのはどうでしょう?」
NG4:陰で部下の悪口を言う
最悪の例: 別の部下に「Aさん、最近どう?ちょっと動きが悪い気がするんだけど」
なぜダメか: 必ず本人の耳に入ります。そして全員が「自分も言われているかも」と不信感を持ちます。
正しい対応: 評価や懸念は、必ず本人に直接伝える。
NG5:上層部の批判を部下に言う
最悪の例: 「本社の方針、おかしいよね。でも従うしかないから」
なぜダメか: あなたのリーダーシップが疑われます。「この人は会社を批判するだけで何もしない」と思われます。
正しい対応: 方針に疑問があっても、チーム内では「この方針の中で最善を尽くそう」と前向きに伝える。
【1ヶ月後】信頼関係を測るセルフチェックリスト
着任1ヶ月が経過したら、以下の項目をチェックしてみてください。
行動面のチェック
- □ 全員と最低2回は1対1で話した
- □ 毎日5回以上、具体的な感謝を伝えた
- □ 小さな約束を100%守った
- □ 全員に公平に接した
- □ 感情的に怒ったことは一度もない
部下の反応チェック
- □ 部下から雑談を振られるようになった
- □ 相談や質問が増えた
- □ 会議で意見が出るようになった
- □ 廊下で目を逸らされなくなった
- □ 笑顔で挨拶してくれるようになった
5項目以上チェックがついていれば、信頼関係の土台はできています。
3項目以下の場合は、この記事の「着任1週目」からもう一度やり直してみてください。
まとめ|信頼は「才能」ではなく「行動」で築ける
新任リーダーとして着任した時の不安や恐怖は、誰もが通る道です。
でも安心してください。 信頼関係は、特別な才能やカリスマ性がなくても、必ず築けます。
必要なのは、この記事で紹介した7つの行動を、愚直に実践することだけです。
最初の1ヶ月でやるべき7つの行動(再掲)
【1週目】
- 個別面談で「聞く」ことに徹する
- 前任者のやり方を否定しない
- 小さな感謝を毎日5回伝える
【2週目】 4. 雑談で人間性を見せる 5. 小さな約束を100%守る
【3〜4週目】 6. 的確なフィードバックで成長を支援する 7. 公平性を行動で証明する
今日から始める「最初の一歩」
この記事を読み終えた今、すぐにできることがあります。
明日の朝、出社したら…
- 紙に部下の名前を全員書き出す
- 各自の最近の仕事を1つずつ思い出す
- その日のうちに、3人に具体的な感謝を伝える
たったこれだけです。
「ありがとう」の一言が、信頼の第一歩になります。
新任リーダーとしての最初の1ヶ月は、あなたのリーダーシップの土台を作る最も重要な時期です。
完璧を目指す必要はありません。 失敗しても大丈夫。 大切なのは、誠実に向き合い続けることです。
あなたが一歩踏み出せば、チームは必ず変わり始めます。
さあ、明日から「信頼をつくる行動」を始めましょう。 応援しています。

